いつからだろう。教団内で見かける度に目で追うようになった。


任務後に空いた時間ができたら、外国の珍しいお土産を買っていって、友達だからとプレゼントした。
暇があれば買い物に誘って、食事を一緒にとったり、お風呂も一緒に入ったりした。 一緒に任務をすることがあれば息ぴったりの連携プレーですぐに片付けた。 負傷したという報せを受けたときは今までにないくらいのスピードでアクマを片付けてホームに戻った。 白い肌にとけそうな真白い包帯に滲む赤をみて思わず抱きついたら、平気だよって微笑まれて、その可憐な花のような笑顔とは真逆の痛々しい姿に喉の辺りが熱くなって泣いたこともあった。その時はラビに、心配しすぎさって苦笑されて妹にするみたいに頭をなでられたんだっけ。 全部ぜんぶ、同じ地方の生まれで、同い年で、仲良しの友達だからだと思ってた。
いつからだろう。意識が変わっていったのは。
まず、胸焼けのような妙な違和感に気づいたのが2週間ほど前。


のことは好き。ホームにいる仲間、一緒に闘う仲間だから。そう、仲間だから。 だけどアレンくんやラビ、神田に対する好きとは違う。もっと、こう、柔らかくて淡い感じ。
同性だから? 違う。ミランダに対する好きとも違うから。
一緒にいる時間? そんなの関係ない。アレンくんと、神田やラビでは多少の差こそあれどそれは大したものではないから。
色々考えた末に出てきた1つの可能性はどう受け止めたら良いか分からないものだった。




食堂。たくさんの人の影からが見えた。その姿を目に映した途端に自然と口角が上がり、心臓が倍以上の速さで体の隅々まで血液を送り出し始める。 しばらく見つめていると、あちらも戦場で闘う人、やはり視線に気づいたらしく手を振り、こちらに向かって走ってきた。


「リナリー! ごめんね、遅くなっちゃって・・・」


私の座っている席の目の前に立つや否や、申し訳なさそうに顔の前に手を合わせる。そんな行動のすべてがかわいく思える。


「大丈夫よ、私が誘ったんだもの」


そう、今日も食事に誘ったのだ。2人とも任務が入っていないから、と。だから食堂で待っていた。だけどいつまで経ってもが来ないので不思議に思っていると、リーバー班長が来て、に急遽任務が入ったと伝えてくれ、今に至る。


「でも、本当にごめんね。待ったでしょ?」
「ううん、待ってないわ。私もさっき来たところだし、は任務だったんでしょう?お疲れ様」
「うん、突然入っちゃって。でも近場だったし、私はサポートだから」


が眉根を下げて笑う。彼女のイノセンスは鎖状のもので、いつも手首に巻いているチェーンが変化する。アクマを拘束するのに役立っているが、それではあまりアクマにダメージを食らわせられないことを本人も気にしているらしい。そんなに気にすることではないと思うのだけれど。だって、のお陰で私たちは楽にアクマを倒すことができるのだから。


「私はがそのイノセンスでよかったと思ってるわ。が危険な目にあうなんて嫌だもの」


少しだけ首を傾げ微笑むと、思いがけず本当のことが口から出てしまい心臓が少し高鳴った。だけど、本心だから隠すこともないだろう、と心を落ち着けようとする。
それに対してがいつものようにかわいく笑った。


「ふふ、ありがとう、リナリー。でも私もリナリーが怪我するのは嫌だなぁ・・・」
その言葉にドキリと心臓が一度大きく跳ねた。彼女が私のことを心配しているだなんて思ってもみなかったから。急激に自分の体温が上がっていくのが分かった。先ほどまで普通に動いていた口が開きづらくなった気がした。
気を紛らわそうと、話題を変える。


「・・・ありがとう。さ、何か頼みに行きましょ?もお腹空いたでしょう? 何食べる? 私頼みに行くから」
「あ、いいいい! 私行くよ。だってリナリーのこと待たせちゃったし・・・。リナリーは何食べる?」
「そうね、じゃあお願いするけど・・・の好きなものでいいわ。でもお昼だから軽いものでね」
「うん、分かった。好き嫌いとか、確か平気だよね」


が席を立ちながら確かめるように言う。それに首を縦に振ると安心したように笑った。そして、じゃあいってくるね、と軽く手を振りくるりと方向転換した。見えるのが背中というのは、どことなく寂しい気がする。振り向いてほしい。行かないで。
と、口が勝手に動いた。


「やっぱり私も行くわ。一人じゃ何があるかわからないもの」


急いで椅子から立ち上がりの元に駆け寄る。後ろで椅子が派手な音を立て、食堂にいる人の視線が一気に集まったが気にしない。気にする余裕がない。


「むぅ、私一人じゃ頼りない?」


が拗ねたように少し頬を膨らませる。小さい子のようなそれに、下品だけれど、軽く音を立て口から息が漏れた。


「違うわ、一人じゃ誰に襲われるかわからないでしょう? だってこんなにかわいいんだもの」


は私のよ、って周りに見せ付けるように軽く抱きついてみた。あいかわらず鈍い彼女は私がなぜそんなことをするかなんて気づいてないのだ。私がこうやっている間に何を考えているのかも、また。
だからきっと、今も照れたように微笑むのだ。


もし私の心を半分に切って中を覗くことができたらあなたは驚くでしょうね。だって、あなたでいっぱいだもの。
それを見てあなたは私のことを嫌いになるかしら。
でも、もうこの気持ちを嘘だとはいえない。だけど、膨らんだ気持ちがいつか私を中から喰い潰すまで、あなたには言わないでおくわ。




















若草色の生命が芽吹く
(きっと男女の恋みたいに可愛らしいピンクじゃないわね)
(花の咲かない草の色、きっと、きっと、そのうち深緑に変わってしまう)


リナリーはこういうおかしな話の方が書きやすいです。
腐女子だったり、レズだったり腹黒だったり・・・。とにかくリナリーは最強なんです。
髪が長かったころのリナリー早く戻って来いーー。
090213 春日時雨