嘘だと思った。
そりゃ確かに健全な男子高校生でいてほしいとは思うけど・・・、けど、アレは予想外だ。だってあの田島と"一緒に"だよ。ありえない。ありえない。ありえない。
やっぱり男子はそういうのが好きなんだろうか。なんていうか、その、むちむちでボンキュッボンなナイスバディ・・・たとえば、エロ本とか雑誌のグラビアにいるような女の人みたいに。


・・・というわけで。
鏡の前に立って、全身をチェックする。
大丈夫。大丈夫だ。多分、大丈夫。慣れないことをするのは恥ずかしいけど、おかしくはないはずだ。
階下から「遅刻するわよー」と急かす声が聞こえた。「はーい」と短く返事をして壁時計を見やると、普段家を出る時刻を優に5分は超えていた。これはまずい、と慌ててカバンを引っつかみ部屋を出る。そのままの勢いで玄関まで走るとリビングから「いってらっしゃい」とゆったりとした口調で声がかかった。それに早口で答える。
久しぶりの騒がしい朝だった。いつもの時刻で既に遅刻ギリギリなのに、鏡なんかの前に何分も立っていたから余計にやばい。
腕時計で時間を確認すると予鈴がなるまであと1分もなかった。あぁもうこりゃ遅刻だわ。って、鐘鳴ったし。
もう今更急いでも仕方ないし面倒なのでゆっくりと歩いていると、前方に見知った背中を発見した。

「・・・泉ーーー!」
「うおわ!」

全速力で走って後ろから抱きつき、その首元に顔をうずめる。泉の匂いがした。そのまま久しぶりの泉の匂いと感触を堪能していると、突然頭に衝撃。思わず(名残惜しいけれど)泉から離れた。

「痛い・・・」
「いつまでも抱きついてんなよ。暑苦しい」
「・・・ほんとはそんな事思ってないくせに」

それが彼の照れ隠しだと分かってるあたしは小さく笑う。「痛い」と口には出してみたけれど実際は痛くないし、あたしの頭に衝撃を与えた拳にそれほど力が入ってないのが証拠。いつもいつも、あたしのちょっと過剰なスキンシップに対してこうやって返してくるのだ。

「はいはい。遅刻すんぞ」

あたしの方を振り向きもしないですたすたと歩いていくその背中を早足で追いかけた。
あれ、そういえば。こんな時間に泉がいるのはおかしくないか? 朝から晩まで部活で忙しいんだから。

「泉ー、部活は?」
「今日は完全にグラウンドのっとられたから朝練なし」

なんともそっけない態度。もしかして朝練ないから不機嫌なのかな。確かに部活中楽しそうだもんな。でも、それにしたってこの時間はおかしい。完全遅刻の時刻。野球部って、遅刻しても監督に怒られないのだろうか。

「泉さ、寝坊? 遅刻めったにしないのに」

珍しいなと思っていると、抑えていたのに少し笑いが入ってしまった。あ、やべ、と思ったときにはもう遅くて、少し前を行く泉がピタリと立ち止まり、

「悪ぃかよ。俺だって寝坊すんだよ、つかお前は遅刻しすぎだろ 今月何回目だ・・・よ」

バッと振り向いて早口にノンブレスで捲くし立てる泉の声に勢いがなくなったかと思うと、ぽかーんと口をあけてあたしを凝視した。あれ、どうしたんだろ。

「泉・・・?」

どうして泉がそんな顔をしているのか分からないあたしはただ首を傾げるばかり。あたし、そんなに驚かせるような恰好してるつもり、ないんだけど・・・・・・・・・いや、してたか・・・も?

「えと、い・・・泉?」

もう一度、フリーズ状態のままの泉に声をかける。反応がない。あらこれは重症だ。泉、と三度目の呼びかけをしようと口を開くと、声に出す前に泉は復活した。

「お、まっ・・・なんで、んな恰好してんだよ。バッカじゃねぇの!!!」

突然怒鳴って首元に手を伸ばしてきた泉に今度はあたしが驚いて、びく、と肩をすくませ瞳を固く瞑った。すると、何やら首元で手が動く気配が。ちょっと・・・! 野外プレイは早すぎないか、なんて冗談を言えそうな雰囲気じゃないことは空気の読めないあたしでも察して言わなかった。で、泉は一体何を? 不思議に思ってそろりと瞳を開けると、目前にはあかく染まった泉の顔。初めて見るその表情に動揺して、何か言わなきゃと口を開けば出てきたのは目の前にいる大好きな彼の名前で。

「いっ、泉・・・っ?」
「ブラ見えてんだよ、このバカ!」
「はぁ?」

返された言葉の、少し溜めてから言った「バカ」ではなく、その前の言葉に物凄い衝撃を食らった。ぶ、ブラですと・・・!?

「え、嘘、え・・・え、・・・・・・え!?」
「第3まで開けてりゃそりゃ見えんの当たり前だろうけど何でそんなに開けてんだよ。普段は第2まできっかりしてるくせによ」

そういえば、開けたんだ。やけに胸元がすーすーするなとは思ってたけど・・・って、朝のこと忘れるなんて自分の脳はやばいんじゃないか? そろそろ脳トレとかするべきだろうか。

「つーか! スカートも下げろ!! 折りすぎ!!」
「あーい、すいません」

大好きな泉にこれ以上怒られるのは避けたいので、素直に言うことを聞き折り目を戻してスカートを下ろす。怒った泉は超恐いから。顔が可愛い分、なんか、余計に。

「で、なんでそんな恰好してたわけ?」

あたしがスカートをいつも通り膝が見える程度の長さに戻したのを確認したのに、泉の眉間にはまだふっかぁーい皺が刻まれたまま。
つーか、「なんで」って・・・元はといえば泉が悪いわけで・・・。

「そうだよ! 泉が悪いんだよ!!」
「はぁ!? そうだよ、って何がだよ! つーかなんで俺?」
「だって! 泉が・・・田島なんかと一緒に、」

続きが言えない。あれ、こんなに恥ずかしい言葉だっけ? エロ本、エロ本エロ本エロ本・・・頭の中では何度でも言えるのに、いざ口に出そうとすると喋り方を忘れたみたいに音が出ない。

「田島と、何?」

泉は腕まで組み始めた。威圧感がすごい。周りの男子より小っちゃいくせに何さ。あーもう、こうなったらやけくそだ。

「・・・エロ本見てるからじゃ、ボケ!!」

中学校の体育祭以来の大声で咽喉が痛くなったけど今は構ってられない。泉に怒られる前に逃げなきゃ。言い逃げだ。
「おい!」と制止の声がかかるのを無視して走り出す。どうせかなりの遅刻だけど、走ったほうが先生受けいいしね!
いつもは不満だけど、今日だけは泉とクラスが違ってよかった。


「普通道端であーいうこと叫ぶか!?」
「叫ばないですごめんなさい」
「お前が大声で叫んだせいで注目されて死ぬほど恥ずかったんだぞ!」
「ほんと反省してますもうしません。だから許して昼休みなくなる・・・」

でも結局その後昼休みにたっぷりお説教を食らいました。









脳裏を掠めるインディゴのキセキ
(偶然見えたあの色が焼きついて離れない)
(「(くっそ、授業に集中できねぇ・・・!)」)


途中からなんだか分からなくなってきてこんな長引いたorz 昔の書きかけってやっぱダメっすね。
とりあえず泉大好きだよ。おいらは泉は経験豊富でも初心でもどっちでも素敵だと思います。
ただ共通して、彼女のいい恰好(水着とか)は自分以外には見せないだろーなー、なんて。
これの続きが書きたい。あーまた名前変換ないですねすみません。
091024 春日時雨