「お、水谷の彼女!」

今日は部活もないし、寒いので早くお風呂にでも入ろうと思って第2グラウンド近くを早足で通り過ぎようとすると、正面からやってきた野球部員に指を差された。
・・・違う。私じゃない。水谷くんの彼女じゃないし。
それなら誰を指差して言っているのかと少し気になって後ろを振り向いた。誰もいない。

「そこのアンタだよ。水色に白の水玉模様のマフラーしてる」

と、また別の子。
水色に白の水玉・・・。あれ、それは私のマフラーだ。ちょっと子供っぽいけど可愛くて気に入ってるから、もう何年も使ってる。でも、私、

「あの、私、別に水谷くんの彼女じゃ・・・」

ありませんけど。そう言い終わる前に、目の前の2人の野球部員の奥からさらにもう1人野球部員が走ってきた。

「阿部! 田島! 変なこと言うなよ!!」

水谷くんだ。
試合中でもしないような全力疾走をしてみせた水谷くんが息切れに襲われながらもそれに負けず大声を出した。

「なー、この子水谷の彼女じゃねーの?」
「いつもしてんじゃん。8組のの話」

・・・私のことだ。8組だし。

「あー、もう! 2人とも黙ってってば!!」

後ろから水谷くんが2人の口を押さえた。もう取っ組み合いしそうな勢いだ。「放せよ、水谷!」なんて押さえられてる2人が暴れるが水谷くんは放さない。ぱっと見ケンカしているように見えるけれど、この至近距離で見るとそうじゃないのがよく分かる。仲良しなんだ、野球部って。
そういえば、野球部の人と話をするのは初めてだったかもしれない。8組には野球部員がいないから。

「あの、突然ごめんね! 変なこと言って・・・」
「ううん、全然! 野球部って仲良しなんだね」
「えっ!? そ、そうかな? ・・・うわっ」

とうとう形勢逆転だ。やっとのことで水谷くんの腕の中から抜け出した田島くんと阿部くんが水谷くんを地面に押し倒した。というか、押し潰したに近いかもしれない。
田島くんは「俺、先行ってんな!」と笑顔で走り去っていったけど、残った阿部くんはゆるやかな動作で水谷くんの背中に乗った。私の耳にはカエルがつぶれたんじゃないかと思うような呻き声が聞こえた。

「あ、の・・・大丈夫?」

地面にうつ伏せになってる水谷くんに目線を合わせるように屈んで尋ねる。半べそ状態でなんだか可哀想だ。

「あっ、だ・・・だだだいじょぶっ! あは、あはは・・・」

この状況で力なく笑う水谷くんの意図することが分からなくて首を傾げる。だけどすぐに笑顔を取り繕った。なんとなくだけど、笑っていた方がいいような気がしたから。
瞬間、水谷くんの表情が変わって、そのまま固まった。

「・・・・・・!」
「だらしないカオしてんなよ!」
「痛って!」

そんな水谷くんの頭を阿部くんがはたく。綺麗に入ったのか凄く良い音がした。

「・・・痛そう」

思わず口に出して呟くと、阿部くんが痛みに顔をしかめる水谷くんとは対照的なけろっとした顔でこっちを見た。

「あぁ、こいつは平気だから帰っていいよ。引き留めて悪ぃな」
「ちょ、阿部っ! なに勝手に・・・っ」
「えっ、あ・・・うん。じゃあ帰ります」

どうしたんだろう、と一度ちらりと水谷くんに視線を移してから立ち上がる。結構な時間、ここで立ち話をしていた気がする。当初の予定通り早くお風呂に入っちゃおう。

「あ・・・ちょっ、ちょっと待って!」

慌ててかけられた声に反射的に動きが止まる。運動不足の私には中腰姿勢は辛いけど、その状態のまま聞き返す。

「どうしたの?」
「お、俺と・・・友達になってくれませんか?」

突然の誘いに驚いたけど、背中に阿部くんを乗っけて寝そべったままで言う水谷くんが面白かったから、

「よろこんで」

笑顔でそう答えたの。










ここからはじまるこいものがたり!
(「まだ面識なかったのかよ」)
(「う、うるさいな!」)
(「つーか、パンツ見えてただろ、お前。感謝しろよ。田島だったら口に出してたぜ」)
(「(・・・確かに)」)


選択式お題をよく分からんけどフルコンプしたくてこれは誰でー・・・とか仕分けして、
何となく同一主人公だなっていうのはまとめたら、水谷と無駄にラブラブバカップルができたので
その出会いというかを書きたくなって。うん。この子とラブラブするんです←
ていうか、名前変換少なっ・・・!
100103 春日時雨