05.ずっと、憧れてた
いつも考えるの。
同じ境遇なのに、どうして、どうして彼と私はこんなにも違うのだろう、って。彼はあんなにも輝いて見えるのに、なぜ私はまだ暗闇にいるのだろう、って。
彼には母親がいない。私にもいない。再婚はしていないから人数は減ったのに、父親はより一層働くようになった。彼の父親も、多分いっぱい働いていると思う。私には兄弟がいない。彼には姉と弟がいる。それは私と同じじゃない。でも、一緒なのに。私は女で彼は男。私は帰宅部で彼は野球部。あとはそれくらいしか違いなんてないのに。
太陽に忘れられてしまった私と違って、太陽の下、グラウンドで白球を追う彼はひどく眩しかった。
「いいな・・・」
羨ましい。輝いている彼が。
フェンスを握る手に自然と力が入り、ギシッと音をたてた。
「あれ? さん?」
「・・・さ、かえぐちくん!」
不思議そうに首を傾げる栄口くんと目が合うと彼の名字がひとりでに飛び出した。呼ぶつもりなんてなかったのに。どうしよう。
名前を呼ばれた彼は監督か先生らしき女の人と少し話してからこっちに来た。「どうしたの?」ってやわらかく微笑まれ、その眩しさに逃げたくなる。
「さん?」
呼んでおいて一向に喋ろうとしない私を心配してか、少し俯きがちになっていた顔を覗き込まれる。
すっかすかのフェンス越しに見る栄口くんはやっぱり輝いていて、なんだか泣きたくなった。
どうすればあなたみたいに輝けるの?
「、さん・・・?」
もう一度彼に名前を呼ばれ、私の中の何かが壊れた。熱いものが体の奥から涌き出て喉を通り、ぱたり、ぽたりと目から溢れて乾いた地面に染みを作る。自分でも訳が分からなくて驚いたけれど、それ以上に栄口くんが、
「え、あ、ちょ・・・ちょっと待ってて!」
慌てた様子で走り去っていって。どこに行くんだろう、と思ったけれど、彼を目で追う気にはなれなくて。でも栄口くんは数秒後に戻ってきた。フェンスの向こう側に、ではなくこちら側に。
足音に気づいて顔をあげると栄口くんが急いで走ってきていて、ただのクラスメイト相手にわざわざそこまでしてくれる彼に申し訳なくなった。
「栄口くん・・・」
「俺でよかったら話聞くけど・・・、どうしたの?」
あの、と言いかけてまだ目に涙が溜まっていることにに気づき、ごしごしと袖でこする。それが終わってからもう一度、「あの・・・、」と声をかける。
彼はやっぱりやさしく微笑んでいた。
「私も・・・お母さんいないの。でも栄口くんは輝いてる。どうすれば・・・、どうすれば、」
あなたみたいに輝ける? そこまでは口に出せなかった。
彼は些か目を丸くして驚いた表情をしたけれど、またいつもの笑顔に戻って、
「今度、野球教えてあげるよ」
「え・・・?」
今度は私が目を丸くする番だった。野球・・・? 突然なんで? 彼は野球部だけど私は違う。野球なんてやったことがない。
「楽しいよ」
今までで一番の笑顔をみせられて、一度は引いた熱がまた涌き出てくるのを感じた。「大丈夫だよ。」って頭をぽんぽんと撫でてくれる彼の優しさに、私はただただ頷くことしか出来なかった。
なんだかお題の趣旨にあってない気がする・・・。多分「憧れ」の意味はこれじゃないです。
でも栄口、って決めたらなんかこんなのが浮かんできた←
途中日本語が滅茶苦茶だけど、それでも栄口は分かってくれると思う。優しいな、栄口。
ていうか、名前変換が少ない上に同じような呼ばれ方してるなぁ。
090929 春日時雨