キーンコーンカーンコーン、と一般的な学校のチャイムが授業の終わりを告げる。
起立とほぼ同時に教科書やらノートやらを全て机にしまい、着席をしてすぐに時計を確認する。
終了後1分まであと5、4・・・廊下の奥から足音が聞こえてきた。あぁ、うるさいなぁ、あの馬鹿! ・・・1。

ーーー!!」

きたーーー! うっせぇなアイツ。何で休み時間のたびにあたしのクラスにくんだよ。どんだけ暇人なんだよ。馬鹿だよね。ほんと馬鹿だよね。どうせ家で勉強しないんだから間の休みで少しくらいしなさいよ。ほら、野球部の人と集まってさ。

「なぁー、ー聞いてる?」

いつの間にやら正面に来たアイツがあたしの机に両手を置きしゃべる。
はいはい、聞いてます。あぁもう、叫ばないでよ。つか手置くな、体重かけんな。机がみしみしいってんだよ。
返事をしないにあたしに再度アイツが尋ねる。

「おーい、?」
「聞いてます!!」

聞かれるのもうざったくなってきつめに答えると、じゃあ答えろよー、なんて目の前でにかっと笑う。馬鹿っぽい笑顔が本当にむかつく。

「大体さ、何でくんの? どんだけ暇人なの田島。ありえないでしょ、野球部の人たちと仲良く勉強でもしてなさいよ。馬鹿なんでしょ? だよね、馬鹿だよね」

そう捲くし立てれば、ひっでぇーとまた笑う。今度はけたけたと盛大に。あたしの中じゃ"コイツ"にもなりゃしないのよ、それを分かってんの? やっぱ分かってないよね、馬鹿だもんね。あたし、分かってない方に全財産賭けれるな、絶対。

「馬鹿馬鹿言うなよー。ほんとにバカになんだろー」
「はっ、もう十分すぎるほど馬鹿でしょうよ。言われたくないならしっかり勉強しやがれそしてここには二度と来るなアホ」
「そうだ! 野球部こいよ!!」
「はぁ!?」

アイツの台詞に鼻で笑ったり、得意の早口で喧嘩腰で返したりとあたしはもう臨戦態勢万全だったのに突然話題を変えられて、秀才風に言えば、寝耳に水だ。
さっきまでの話はいったい何処に飛んだのか、アホという言葉は彼の耳を素通りしたらしい。
・・・じゃない。ちょっと待て。今何て言った。

「あのねぇ、あたし女! 野球初心者! 千代ちゃんみたいにソフトボールだってやってないの! 無理!! 分かる? Do you understand?」
「おー、すげ! 英語の発音ちょーいいじゃん! 今の何て言った!?」
「そうじゃない! あたしの話聞いてた?」
「しのーかと知り合いなんだろ? なら話は早いじゃん!」

だから、と思い切り机を叩いて立ち上がるとその音に驚いたのか、それとも最初から見ていたのか、クラスのほとんどの人の視線を感じた。目の前のアイツは腕を頭の後ろで組んでいつも通りへらへらしているのに、自分だけイライラして無駄に心拍を数上げて、それがなんとなく負けたような気がしてまたイラついて、いすに勢いよく座った。座ったときに浮いた足が机に当たって派手に音を立てた。だがそんなことは気にせず手足を組む。見下ろすアイツの視線と見上げたあたしの視線が少しぶつかった。

「何よ」
「何で怒ってんの?」

睨みながら問いではない問いを発する。アイツはそれにさらに問いを重ねてきた。
まったく、聞いてんのはこっちだっつーの。

「自分の胸に聞いてみなさいよ。とにかくあたしは野球なんてしないから」
「胸・・・? オレ胸ねぇよ。・・・じゃなくて、野球は観戦! オレゲンミツに頑張るからさ!」

あぁ、そういうことか、と納得する。さっきからあたしたちは話が噛み合ってなかったらしい。
だが、それでも結果は同じ。了承なんかするわけがない。

「どちらにせよ、野球部には行かないから。めんどい」

そうばっさりと切り捨てれば、今までのあのうざったいくらいの笑顔が消えて、あからさまに落胆した表情になった。首が頭の重さに耐え切れていないかのように傾き、しゅんとした顔は犬のようだったけれど、思わず了承しそうになったけれど、我慢する。ここで折れたら後で後悔するのは目に見えて分かっているから。
アイツが今の状態から復活してまた何かを言い出す前に逃げなくては、と突如思った。このままだと絶対に違う話題で絡まれる。

休み時間終了まであと1分だが仕方ない。先生や親の説教と、コイツに絡まれることのどちらが嫌かを比べたら説教<<<コイツだ。とにかく絡まれたくない。そう思い席を立った。
高校に入学してから初めてサボることになる。あーあ、せっかく今までそこそこいい子でやってきたのに、全部ぱーだ。コイツの、田島のせいで・・・!

「あれ、? もう授業だろー?」

なるべくゆっくり静かに歩いて、ドアを開け、全てにおいて静かに行動したつもりだったのに気づかれた。どうやら田島の復活の方が早かったらしい。
無視するよりはいいだろう、と言い返す。

「だったらアンタも早く教室戻んなさいよ、馬鹿!」

そして、ダッシュだ。猛ダッシュ、超ダッシュ。全力疾走。本当に、何年ぶりかの。
目的地はサボりの定番、屋上。やはりあそこはサボるのに最適だと浜田から聞いた。後ろからあたしの名前を呼ぶ田島の声が聞こえてきたとき、あぁ、それで浜田は留年したんだっけ? なんてどうでもいいことが頭を過ぎった。
田島があたしを呼ぶ声が段々と近く、大きくなってくる。
原因は多分、田島の足が速いだけじゃなくあたしが失速していることにもあると思う。いや、多分じゃなく確実に。
そして、屋上に着いたときには真横に笑顔に戻った田島がいて、あたしは膝に手を当て肩で荒い息をしていた。ただ、ここで追いつかれたわけじゃない。後半は余裕綽々の田島と険しい顔のあたしの並走だったのだ。

「田島っ・・・アンタ、何でくんのよ・・・!」

息切れしつつ、途切れ途切れに言葉を搾り出せば、田島はまたあの笑顔をする。

「だってが逃げんだもん」
「お前まじムカつく!」

田島の言葉にようやく整った息で返事をする。すると田島は訳が分からないという顔をした。それに対してあたしはさらにイライラが募り、あからさまなため息を吐く。田島が首を傾げる。
屋上に2人きり。相手から逃げるようにフェンスに向かって数歩歩いたその時、風が強く吹いた。

「「あ」」

あたしと田島の声が綺麗に重なる。
風が吹いたのは一瞬。声が重なったのも一瞬。全てが一瞬の出来事だった。少なくとも、あたしにとっては。
屋上が沈黙した空気に包み込まれた。のも、また一瞬。そして、その空気を吹き飛ばす勢いの大声を田島が出した。

のパンツ見ちったー!!」
「最っ低! まじお前死ね!! 消えろ! さっきのを記憶から抹消しろ!」

怒鳴るあたしに怖っえーー! と田島が笑う。
なぜだか今日に限ってスカートの下にハーフパンツを穿いていない。しくじった。最悪だ。

下穿いてなかったんだなー」

田島が普通に、あくまでも普通に聞いた。

「今日はたまたまだっつの! っざけんな馬鹿!!」

このとき開きっぱなしの屋上のドアからあたしの怒鳴り声が校舎に響いたらしいことを後から聞いた。
結局、パンツの色をあの田島に脅しに使われ、あの田島の練習を見に行くことになった。
放課後、休み時間と同じようにあたしの教室にやってきた田島に連れられ、野球部が使っているグラウンドまで走った。本日二度目の全力疾走に体が追いつかず、何度も足がもつれ転びそうになったが手を引かれているためそれも叶わず、ふらふらになりながらだったので相当おかしな走り方をしていたんじゃないかと思う。
グラウンドには、田島が監督らしき美人の女の人に何か二言三言伝えて許可を得てから入れてもらった。
全く無関係の生徒がベンチにいるということで野球部員の視線がぶすぶすと突き刺さる中、一人だけ笑顔の田島にまた怒りがこみ上げる。だがそれも休憩時間までの話。休憩時間に泉に「ドンマイ」と肩を叩かれてからは好奇や不審だったものが憐れみに変わり、その後練習中何かすごいことをする度にあたしに向かって叫ぶ田島を一喝してからそれは羨望に変わった。
最後まで付き合ったので放課後どころか貴重な夜の自由時間までつぶれるし最悪なことばっかりだったけど、何時間も一緒にいたから美人な監督さんやその他部員さんたちとすこし仲良くなれたのはよかったと思う。










きっと風のいたずら
(先生に怒られたのも、連絡せずに遅くに帰って親に説教食らったのも、)
(とにかく今日の悪いこと全部!)


田島はギャグにしかならない(´ω`)
そしてだらだらと長引くという・・・orz
まぁ気にしません。田島はきっとこういう子←
090213 春日時雨