永遠唄-とわうた- 第壱話


何で、あたしはここにいるんだろう。
どうして…だって、さっきまでは普通だったじゃない。瞬きしてるほんの一瞬の間に世界が変わるなんて、そんなことありえるはずがない。
本当にいつも通りだった。ほんの、…ほんの一瞬前までは。


01.


ずっとずっと出るのが夢だった生放送の歌番組への出演が決まって、今日は待ちに待った収録の日だった。緊張しながらリハーサルを終えて、いよいよ本番ってとき。衣装もばっちりで、相棒のギターを抱えてスタジオへと歩き出そうとしたその瞬間。ちょとだけ眩暈がして、くらりときた。きっとすぐに治るだろうと思って一度目を固く瞑って開けたら、――目の前は全く違った景色だった。


「え…?」


何が、起こったのか。
現代では中々見ることのないきれいな青空と澄んだ空気。訝しげな視線を寄越しながら目の前を横切っていくたくさんの人たち。そのどれもがおかしかった。知らない。こんなところ、知らない。


「な、に…なんなの…?」


さっきまであたしは立ってて…そう、立ってた。なのに今は座ってる。何の上に?
自分が腰を下ろしている物体を確認しようと視線を下に向ければ、それはよく見知ったもので。


「あれ、…ギターケース」


それはさっきまで自らの手の中にあった相棒のケース。たくさん持ち運ぶからと丈夫なのを選んで、もう何年経っただろうか。しっかりと役目を果たしてくれているその相棒ケースは、この場には酷く異質なものに見えた。


「あ、ギター…!」


腕の中にあったものがない。その事実に気が付き慌ててケースの上からどいて、不安と焦りで震える手でふたを開ければ何事もなかったかのように相棒はそこに鎮座していて。ケースだけがあって肝心の中身がないということにならなくてよかった、とほっと息をついてケースを閉じ、最初にしていたようにその上にゆっくりと腰かける。本当はそんなことしたくないけど、土の上に着物で座ることもできないから致し方ない。
そう、地面がアスファルトではなく土なのだ。そして、道行く人々はみんな着物。さらに、建物は全て木造。どこかの時代劇のロケ地なのかとも思ってしまう。だけどそんなのありえなくて。…だって、テレビ局にいたのに。
本当に今日の衣装が着物でよかった。もし普通の洋服だったらジロジロ見られるだけでは済まなかったかもしれない。
さらに運がいいのかなんなのか、あたしがいる場所は家屋と家屋の間の細い路地のようでさして目立つこともなかった。
そこで、ふと気づく。


(意外に、冷静なんだ…あたし)


きっと動揺はしてる。このありえない事実に。それでもそれを押し殺して平気な素振りをしてしまうのは長年浸っていた世界のせいか。なんで?どうして?どうしよう、って本当はそれしか思考の中心にはないのに、冷静な自分がどこかに存在していてこの状況を客観視しているから不思議だ。
軽く深呼吸をし、ゆっくりと怪しまれない程度に周りを見渡しても、やっぱり時代劇のような風景が広がるばかり。ここがどこなのかとか、どうしてここにいるのかとかそんなことを考えるのはもうやめにして、膝に肘を乗せ頬杖をつく。だめだ、考えたって分からないんだもの。
そうやって一度どうしようもないと諦めがつくとそれから取り乱す気にもなれなかった。逆にこころにぽっかりと穴が開いたように何も浮かばなくなってしまう。
そのままただひたすら時の流れに身を任せてぼーっとしていると、視界の端に人影が映った。


「――っ!」


顔を上げると予想以上に近くにいたそいつに驚いて息が詰まる。
まだ陽も高いというのに酒でも飲んだのだろうか。赤らめた顔でいやらしく笑う一人の男が至近距離にいて、不快感から顔を背けると男の腰にぶら下がっていたものが目に入った。それは、刀だった。
本物かどうかなんて嫌でも分かる。踏みしめた土の感触も、握りしめた着物の感触も、全部本物なんだから。


(不協和音)





とうとう始めてしまった…斎藤さんお相手のトリップ夢(´`)
それなのにまだ斎藤さんは出てきてないし名前変換もないorz
110414 春日時雨