転校してから初めてできた同性の友人に遊びに行かないかと誘われた。人付き合いの苦手な私はまだ夏目くんとしか仲良くなくて、すごく嬉しかったから即刻okした。
遊ぶといっても一緒にお昼食べて、その後買い物行って・・・ってそれだけなんだけど。それすらしたことがなかったから。
ごめんね夏目くん。いつも適当な服装なのに今日は気合入れてお洒落してます。本当にごめんね。いや、あの、夏目くんと会うのが面倒っていうわけじゃないんだけど、何か、慣れすぎたというか。

「・・・どうしたの?」

目の前に座るちゃんが小首を傾げた。・・・あぁその仕草、めちゃくちゃ可愛いです・・・!!

「あ、えと、何でもないんですけど・・・ただ、同性のお友達って初めてだなって思って・・・」
「そうなの!? ちゃん可愛いし面白いから積極的にすればすぐ友達できると思うよ」
「そーだといいんですけど・・・。初日にぶっ倒れたお蔭で近寄りがたいらしいです」

転校初日の自己紹介で何かが憑かなければ倒れることなんてなかったし、今頃お友達がいっぱいできてたかもしれないのに。結局あの時憑いたものが何だったのかが分からないから仕返しもできなかった。本当に、見えないって不便です。

「あはは! 大丈夫だよ。ちょっとびっくりしたけど、話してみたらすっごく親しみやすいし。それにほら、夏目だってそんな感じだから。・・・あ、そういえばちゃん夏目と仲良いよね?」
「なんか、あの、家の方向が・・・一緒だったみたいです」

多分、嘘じゃない・・・はず。家の場所は知らないけどよく一緒に帰るし・・・。
だって、体質とかその他諸々が似ているから、なんて言えないじゃないですか。・・・ね?

「ほんとにそれだけー? 怪しいなぁ、もっと何かあるんじゃない?」

おっとり控えめな草食動物からがっつりがつがつな肉食動物へと華麗なる変身を遂げたちゃんに驚きつつもすぐさま否定しようとすると、ちょうどケータイがそれを邪魔した。話題に合いすぎた甘々なメロディがちょっぴり憎らしい。

「うわぁ、ごめんなさい。メールみたいです」
「もしかして・・・夏目?」

テーブルに身を乗り出し、腹黒要素を含んだ笑みを浮かべるちゃんに、まさかぁと苦笑しながらケータイを開き、あまりの偶然にびっくりした。
それが顔に出ていたのかちゃんがキラキラとした目でこっちを見る。

「・・・夏目くんでした」

視線に耐え切れず白状すると、ちゃんは「やっぱり!!」と手を叩いて喜んだ。その喜び様が可愛くて胸がきゅんきゅんしたけれど、したけれど! 夏目くん・・・なぜこのタイミングでメールをしてきたんですか?

「で、何だって? 夏目」
「あー・・・夏目くんの知り合いが私の心霊体験を聞きたいらしいです」

その知り合いが俳優の名取さんであること以外は包み隠さず言ったのに、「心霊体験」というあれれな単語には反応せず、まだ何かあるでしょと言い張るちゃんを宥めると、なぜか話は思わぬ方向へ進んで、夏目くんが私を狙っている、ということになってしまった。

「絶対夏目はちゃんに気があるんだよ!! 間違いないって!」
「いや・・・そんなことは、ないと思います」

だって、狙ってたら面倒だからってにゃんこ先生のお世話を任せたり私に憑いた妖怪を放っておいたり、そんなぞんざいな扱いはしないと思います。多分。私だったら好きな人にそんなことしませんし。

「うわ、何か楽しくなってきた・・・! ちゃん夏目に返信してみて!!」

あまりにもちゃんが楽しそうだから、否定するタイミングを完全に失ってしまった。文面は何でもいいらしいので言われた通り返信する。
『私は暇なのでいつでもいいですよ。
名取さんがお暇なときにでもお話しします。』
あれ、なんでだろう・・・夏目くん相手に緊張してきた。うわぁ、恥ずかしいなぁ。

「送った?」
「はい。大丈夫ですっていう内容で」
「夏目のやつなんて返してくるかなー。あ、ちょっと飲み物取ってくるね!」

ちゃんは余程興奮しているのか、ほんの数十分前に取ってきたオレンジジュースの残りを一気飲みし、ドリンクバーへと行ってしまった。わたしもちょっと前に取ってきたコーラをちびちびと飲む。緊張は少し治まってきた。のに、マナーモードに変えておいたケータイがテーブルの上で振動した。

「うわっ、夏目くん返信早いなぁ・・・」

『今一緒にいるんだけど、暇か?』
いやいやいや、いくらなんでも急すぎるでしょう、夏目くん。さすがにそこまで暇人ではないです、ごめんね。
『ごめんなさい、今日は無理です。
これから初めてできた夏目くん以外のお友達と製菓材料買いに行くんです!』
友人ができたことをアピールする内容を送信し、ケータイを閉じる。コーラを二、三口飲むとまたすぐにケータイがメールの着信を主張した。夏目くん意外とメール打つの早いなぁ・・・。
『あ、そう。別におれはいいけど、名取さんがショック受けてる。
ていうか、お菓子なんか作れんの?』

「むむ、失礼な・・・! それに、『あ、そう。』って酷くないですか?」

『お菓子ぐらい作れますよ! こう見えても料理得意ですから。
名取さんには謝っておいてください。お願いします。』
怒りと悲しみに身を任せ普段の1.5倍速で打ち込んで送信する。残りのコーラを飲み終えてしまおうと画面から顔を上げると笑顔のちゃんがいた。

「わ、ちゃん戻ってたんですか!?」
「うん。だってドリンクバーすぐそこだもん」

にへら、とちゃんが笑う。
確かにドリンクバーは今座っている席から見えるし、いくら悩んでも5分とかからずに戻ってこれる。そう考えるとちゃんに申し訳なくなった。

「あの、全然気づかなくて・・・すみません」
「え? あ、いーのいーの。夏目とのメールに夢中だったんでしょ? どう、話は順調?」
「え、あ、はい。まぁまぁ・・・かなぁ。お菓子作りますっていう報告をしました」

それは多分、ちゃんが期待しているような展開ではなく、いつも通りの私と夏目くんの会話、だと思う。何ていうか、居心地のいい感じ。うん。居心地・・・いい、よ?

「あ、そろそろ材料買いに行こっか。時間なくなっちゃうし」
「そうですね。結構長居しちゃいましたし」

もうほとんど気が抜けて薄くなったコーラを飲み干し立ち上がる。
ケータイを鞄に仕舞おうと手を伸ばしたときバイブ音が鳴り、同じように店を出る準備をしていたちゃんが期待したような目でこっちを見る。
ちゃんと話しているうちに消えていた緊張感が、体に戻ってきた。そのせいで少し震える手でケータイを開き、メールを見る。

「・・・えぇえええ!??」
「なっ、なになになに!?」

今までにない反応を示した私の元にちゃんが駆け寄る。そしてケータイの画面を覗き込み同じように奇声を上げた。

「これはやっぱりそうだよ! うわ、夏目やるなぁ」
「え、いや、あの、た・・・多分違うって!!」


『じゃあ、作ったら貰ってもいいか?』










天然色のサプライズ
(「ちゃん、頑張って作ってね! 夏目のために・・・!」)
(「え、いや、別にそんなんじゃないですからね!」)


せっかく実体験を基にしたのになんだこの残念さ。名前変換は友人ばっかりだし。夏目いないし。偽者だし・・・! レズっ気ありまくりだし←
素敵なお話がこんな風になっちゃって申し訳ないです。が、修にプレゼントします♪ いらないとかいわないでね・・・!! これが精一杯でした。
多分だけど、夏目はそっけないメールだと思う。直接話すより更に口下手:笑
そして、「つーか」とか「ていうか」よりも「というか」派だと思います(意味分からん)
修様のみお持ち帰り可ですー。これは夏目verも書きたい。つか書かねば。
091024 春日時雨