「星が綺麗だな」

そういってあなたは彼方を見た。私に話しかけているのに、きっとあなたの意識に私はいないのでしょう。きっときっと、彼のことを考えているのでしょう。
だから、真後ろに立っている私でも入る場所がないのだ。私の存在を感じて、そこにいることは分かっているのに、意識には入っていない。今、あなたの頭は「彼」のことでいっぱいだから。
あなたが建物の屋上に座り始めてからどれくらい経っただろう。
深夜に近づき始め、段々と気温が下がり、着込んでいるのに寒さを感じるようになってきた。強い風が吹き、目の前のあなたの少し癖のある色素の薄い髪と上着のフードのファーがうねる。
あなたが少し震えたような気がした。

「ボス・・・」

未だに星空を、星が瞬いている空を見つめているボスの後頭部へと声をかける。案の定返事はなかった。
もう一度声をかける。

「ボス、そろそろ冷えます。戻りましょう? ・・・風邪、ひいちゃいますよ」

先ほどより強く、はっきりと。
ようやくボスが振り向いた。そして、優しく微笑む。

「そうだな、戻るか。風邪ひいたらみんなに悪いもんな」

ボスは、彼は本当に部下想いだ。いつも部下が最優先。そんな優しい人。
だからこそ、心配かけまいと1人で抱え込もうとする。

「多分、平気ですよ」

立ち上がり軽く伸びをする背中へと何の根拠もないことを言う。途端にボスの動きが止まった。
元気付けようと思ったが、何も分からない者が簡単に触れていい話題ではなかったのかもしれない。何時間も1人で考えていたことだ。きっと、安易に首を突っ込んではいけなかったのだ。
ボスはまだ動かない。その背中に、なんと声をかけたらいい?
命を懸けた場面でも決して震えることのなかった手が、不安で震えた。心臓が激しく動く。
時間がとてもゆっくりと流れている気がした。5分、いや10分・・・もしかしたら1分だったのかもしれない。間があいて、ボスが勢いよく振り向いた。
笑顔だった。

「ボ・・・ボス?」

あまりにも予想外の反応に頓狂な声が出た。

「そうだな、アイツは大丈夫だ」

私の髪をわしゃわしゃとかきまわしながらボスが言う。
返事が、できなかった。気づいたらボスの向こう側がよく見えて、首にはファーが当たっていた。

「アイツは、大丈夫だよな」

もう一度、ボスが言う。私の耳元で、ゆっくりと。
「はい」と答えた。
気休めなんかではなく、心から。
すると、ボスが腕に力を込めた。息が少し苦しくなる。

「悪いな。もう少しだけ、いいか?」

私を抱きしめている腕も、その声も震えているような気がして、私の肩口に顔をうずめているボスの柔らかいその髪を、頭を、泣いている子供をあやすようにそっと抱きしめた。

「ファーがくすぐったいだけですから」

今まで生きてきた中で一番柔らかい、恐らく人生初の優しい声で言えば、ボスが少し笑った気がした。










時間よ、止まれ
(そうすれば私だけのあなたになるのに・・・)


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ディーノでシリアス風味とか予想も予測もしてなかったもんだから、へたれて短いですね、うん。
でも、ディーノは辛いことも悲しいことも吐き出さないような気がします。
部下のことはすごく気にかけて悩みとか相談とか聞いちゃうのに、自分は話さない、っていう。
で、ヒロインちゃんはそんなディーノが唯一頼れるというか、弱さを見せれる相手なんですね。分かりにくいけども。
この2人を早くくっつけたくてたまらないんだがどうしよう。この子結構お気に入りかもしれない。
090213 春日時雨
100211 加筆修正