旅の最中は大体野宿。でもどこかの村に着いたら宿に泊まるのが基本。
部屋が空いているときは2人部屋を3つ取れたりするんだけど、ひどいときは5人で2部屋だったり。そうなったら男女で分かれるのが普通だと思う。常識的に考えて。なのに、何で。

「なんで4人で1部屋なの!?おかしいよ!!」

三蔵によって強制的に決められた部屋割り。同室のメンバーを見渡して、堪らなくなって叫んだ。
絶対おかしい。4人と1人に分かれるってありえなくない?

「まぁまぁ、落ち着いて」
「八戒だってさっきまで怒ってたでしょ!」
「そりゃあ、怒りますよねぇ」
「2人部屋に4人詰め込むとか、アイツ頭おかしいよ!」

隣の部屋でくつろいでいるであろう三蔵を思い浮かべた。・・・むかつく。ものすごーくむかつく。

「あたし、文句言ってくる・・・!」

この抑え切れない怒りを本人に直接ぶつけてやらないと気が済まない。
三蔵の部屋に乗り込んで怒鳴ってやろうと意気込むあたしを悟浄は呆れた眼差しで見た。

「やめとけやめとけ。生臭坊主は他人の話なんか聞きゃしねぇっつの」
「それでも行くの!むかつくんだもん!」

無駄なことはするな、と既に諦めムードの悟浄を一睨みして八戒を振り向く。突然視線を向けられた八戒は目を丸くした。

「・・・どうしました?」
「あたし、行くからね!」
「・・・どうぞ」

苦笑いを浮かべる八戒の隣でちょっともう話についていけてない悟空を一瞥し、部屋を出る。そして、

「さんぞー!!」

盛大な音を立ててドアを開け、部屋の主に向かって叫んだ。出せる限りの大声を出したのに相手は振り向かない。それどころかぴくりともしない。

「絶対聞こえてんでしょ!ちょっと!無視すんな!」

どれだけ叫んでも三蔵は大好きなマルボロをふかして新聞を読み続けるばかりで一向にこちらに目を向けない。というか、完全に無視されてる。いくら何でもこの距離で聞こえてないはずはない。

「あーもう!いいよ!三蔵なんか知らないし!ばーっか!ずっとチェリーでいればいいんだよ!!あたしは仲良くみんなと雑魚寝するもん!!」

それだけ叫んで自分の部屋に駆け込んだ。扉を思い切り閉めるとものすごい音とともに変な音もしたけど、そんなの知らない。
青筋を立てるあたしを見て3人は顔を見合わせた。

「あまりいい結果じゃなかったみたいですね・・・」
「だな。おー、こわ」
「・・・壁、ひび入ってるし」
「みんな、あたしと一緒に濃密な一晩を過ごそうじゃないか!!」

ひそひそと声をひそめて話す3人に向かってそう大声で言い放つ。意味の分かっていない悟空はきょとんとし、大人2人は何ともいえない顔をした。

「三蔵なんか、もう知らな」
ばき・・・っ
「うわ・・・」

もう知らない、のあとに暴言を続けようとしたけど、後頭部へのとてつもない衝撃のためにそれはできなかった。
頭を抱えてうずくまるあたしの背中に、憎らしい声。

「何やってんだテメェ」
「何って・・・三蔵がやったんじゃないですか」
「すっげー音したな!」
「悟空、それよりの心配してやれよ。・・・大丈夫か?
「だい、じょうぶ・・・じゃないっつのこの野郎!!」

痛みでにじみ出た涙を拭い、後ろに立つ三蔵の胸倉両手で掴む。そのままぐらぐらと思い切り揺らすといつもみたいにふん、と鼻で笑われた。

「そんだけ動けんなら平気だろ」
「平気じゃないし!たんこぶできたもん!」
「・・・もとからだろ」
「もとからあるわけないでしょ、ばか三蔵!」
「つーか、こぶだけで済んだんだな」
は石頭ですもんね」
「そーそー、何も詰まってねーのに」

背後で失礼な会話が聞こえてちょっと傷ついたけど、今あたしの相手は三蔵だ。とにかくこいつをどうにかして、部屋割りを変えさせなきゃ。プラス後頭部にドアぶち当ててくれちゃった仕返し。そうしないとあたしの腹の虫がおさまらない。だから、悟空たちは今は無視したい、んだけど悟空のセリフは聞き捨てならない。

「つーか悟空!あんたにそんなこと言われたくない!自分だってすっからかんでしょ!」
「俺、よりマシだし!」
「五分五分ってとこですかねぇ」
「八戒!」
「あーもううっせぇ!さっさと行くぞ」

いつの間にやら怒りの矛先が悟空たちの方に向いていたあたしを三蔵は乱暴に引っ張った。加減なしに引かれた腕が千切れそうに痛い。

「ちょ、行くって・・・どこに?」
「決まってんだ炉、部屋だ」
「・・・!あたし一人部屋でいいの!?」
「はぁ!?んなわけねぇだろ、俺と一緒だ」

期待に目を輝かせて言うと、さらりと吐かれた言葉。
あれ、何でそんな話になってんの?意味分かんないし。おかしいでしょ。やっぱりこいつおかしいでしょ。
思考を巡らしてる間にも身体はずるずると三蔵に引きずられていく。

「っやだやだやだ!三蔵と一緒とかありえない!」
「うるせぇ犯すぞ」
「はぁ!?」
「いやに決まってんでしょ!こんのクソ坊主エロ坊主!ばぁーっか!」
「本気で犯すぞテメェ・・・!」
「ひっ!」

青筋をたててこめかみをひきつらせる三蔵に背筋が凍りついた。やばい、マジで怒らせたかもしれない。
そのままずるずると引きずられていくのを足を突っ張って阻止しても大した抵抗にならなくて、すぐに隣の部屋のドアが視界に入る。そして、到着だ。

「う、わっ!」

部屋に入ってすぐ無言の三蔵にベッドまで放り投げられ、先程の発言が冗談じゃないことを思い知らされた。
これはやばい。どうしよう。
解決策が見つからず悶々と悩んでいると、近づく足音。顔をあげるとそこには気持ち悪いくらい満面の笑みの三蔵がいた。

「これで脱チェリーだな」

ああ、もう、あたしだめだ。
神さま仏さま、何でもいいからこいつを止めてください。
つーかチェリー認めんのかよ。










裏の裏の裏をよむ
(2人とも素直じゃないですね)
(ああ、全くだぜ)
(なになに?何がー?)


友人に訊いたら三蔵でギャグとのことだったので書いてみた。ら、こんなんにorz
そしてリクエストを聞いたのだいぶ前です、ごめんなさい・・・。
とりあえず、おいらは三蔵とこんな風に言い合える子が好きです。
110314 春日時雨